【前編】「親父に健康になってほしい」周囲の反対を乗り越えた、ある親子の家づくり。

「エアコン1台で家中快適?」

「そんなわけないだろう。本当は2台あるんじゃないの?」

今から何年も前、リフォームフェアで出会った一人のお父さん。

この出会いが、後に加藤建築のYouTubeを始めるきっかけになるとは、当時は想像もしていませんでした。

そして、この家づくりには、私が一生忘れられない親子の物語があるんです。

「こんな家が本当にあるのか?」

始まりは、コロナが流行する前のリフォームフェアでした。

お父さんは、雪国で暮らすための理想の家を探していました。

高床住宅がいいんじゃないか。雪対策もしっかりしたい。

そんな中で興味を持ってくれたのが、加藤建築のチラシでした。

「エアコン1台で家中快適」

最初は半信半疑だったお父さん。

「本当にそんなことができるのか、教えてくれ」

私は、自分が長年研究してきた全館空調の仕組みを説明しました。

すると、お父さんの反応が変わり始めたんです。

「えっ、そんなことができるのか!」

だんだん目が輝いてくるんです。

私は、こういう瞬間が大好きなんですよ(笑)。

でも、説明だけでは本当かどうか分かりません。

そこで私は言いました。

「じゃあ、実際に住んでいるお客様の家を見に行きましょう!」

「うわ、すっげえ! 床暖房いらねえじゃん!」

ちょうど冬のOB宅体感会がありました。

お父さんをご案内すると、家に入るなり驚かれました。

「あったけえ!」

「なんだこれ!」

床が冷たくない。

廊下も寒くない。

家中が暖かい。

エアコンの風を体に当てて暖まるような家でもありません。

「これ、床暖房なの?」

「違いますよ。床暖房はありません」

「えっ、じゃあ床暖房いらねえじゃん!」

私は笑ってしまいました。

そうなんです。

私は、床を無理に暖めるより、そもそも床が冷たくならない家をつくろうと考えてきました。

お父さんは実際の暮らしを体験して、納得してくれたんです。

そして、こんなことを言ってくれました。

「俺、こんな家に住みたかったんだ!」

うれしかったですね。

でも、私は冬だけで決めてほしくありませんでした。

「今度は夏にも来てください。夏も体験してもらいたいんです」

真夏の23℃。「寒くないの? 電気代は?」

夏になり、もう一度OB宅体感会にお誘いしました。

外は暑い。

ところが、家の中はまるで別世界です。

家中が23℃前後の快適な環境になっていました。

お父さんは目を丸くして驚きました。

「こんなの初めてだ!」

「冬も夏も同じ温度なの?」

そして、こんな質問が出ました。

「でもさ、夏に23℃って寒くないの?」

「それに、電気代がものすごくかかるんじゃないの?」

私は笑いながら説明しました。

「23℃の家を23℃に保つのって、案外お金がかからないんですよ」

「例えば、家の中が40℃近くまで熱くなってしまったら、それを26℃に冷やすのは大変でしょう?」

壁も床も天井も、熱を持ってしまいます。

そこから家全体を冷やすには、大きな冷房負荷がかかります。

でも、最初から建物全体を快適な状態に整えていれば、たまった熱を一気に取り除く必要がなくなります。

もちろん、どんな条件でも23℃を維持する方が省エネになるという意味ではありません。

建物の性能や湿度、外気温、運転方法によって変わります。

私が伝えたかったのは、エアコンの設定温度だけでは省エネを判断できないということでした。

すると、お父さんは、

「いやあ、ぶったまげた!」

「感覚が全然違うな!」

と驚いていました。

「なんでトイレまで涼しいの?」

お父さんの驚きは、それだけではありませんでした。

「加藤さん、トイレも涼しいじゃん!」

「ここ、エアコンないよね?」

「ありませんよ(笑)」

「じゃあ、なんで涼しいの?」

今度はお風呂。

「お風呂も涼しい!」

「押し入れまで? どういうこと?」

そうなんです。

エアコンが直接設置されていない場所でも、快適な温度になっている。

私は、仕組みを一つひとつ説明しました。

すると、お父さんが面白いことを言ったんです。

「ああ、やっと分かった!」

「なんだ、ものすごいハイテクなのかと思ったら、結構原始的なんだな!」

私は思わず笑ってしまいました。

「そうなんですよ!」

基本的な原理は、決して難しいものばかりではありません。

でも、その当たり前の原理を組み合わせ、家全体で実現しようとすると簡単ではないんです。

誰でもできそうなことなのに、なかなか気づかない。

そこに、私が長年研究してきた家づくりの面白さがあります。

お父さんにとっては、驚くことばかりだったようです。

「想像していた家を、はるかに超えている!」

まるで未来の家。

でも私にとっては、人間が普通に快適に暮らせる家をつくろうとしているだけなんです。

「親父に健康になってほしい」

実は、この家づくりには、もう一人、大切な人がいました。

お父さんの長男さんです。

長男さんは、お父さんのために家を建てようとしていたんです。

暖かい家で暮らしてほしい。

元気でいてほしい。

もっと健康的な暮らしをしてほしい。

そして、私に伝えてくれた願いがありました。

「加藤さん、親父を健康にしてください」

その思いを聞いたとき、私は胸を打たれました。

「ああ、やられた……」

「この人、すげえな」

電気が走ったような衝撃でした。

自分のためだけじゃない。

大切なお父さんのために家を建てる。

そんな長男さんの気持ちを、私は受け止めたんです。

私は、そのとき改めて思いました。

家づくりというのは、家族の人生を預かる仕事なんだ。

ところが、家づくりに大きな反対が。

でも、この家づくりは順調なことばかりではありませんでした。

当時、加藤建築の家づくりは、一般的な住宅とは考え方がずいぶん違っていました。

エアコン1台で家中快適。

床暖房もいらない。

夏も冬も23℃前後。

そんな家をつくると言われても、信じられない人がいたんです。

長男さんは、職場の上司からも強く反対されたそうです。

「そんなのありえない」

「騙されているんじゃないか」

「詐欺じゃないのか」

そして、契約をやめるようにという話にまでなったと聞きました。

そのときの電話のやり取りは、今でも忘れられません。

私自身、もうこの家づくりはダメになったと思いました。

「ああ、これはもう無理かもしれないな……」

正直、諦めかけたんです。

でも、長男さんは諦めなかった。

周囲からどれだけ反対されても、自分で見て、聞いて、考えて決めた家づくりを大切にしてくれたんです。

そして何より、

お父さんに健康的で快適な暮らしをしてほしい。

その思いがあった。

私は、長男さんの決断に本当に心を動かされました。

雪国の常識との戦い

工事が始まってからも、いろいろありました。

近所の方から、雪国の家はこうするものだ、ああするものだ、と言われることもありました。

もちろん、長年の経験から生まれた知恵には大切なものがあります。

でも、私は昔からの常識をそのまま繰り返すだけの家づくりはしたくなかった。

もっと快適にできないか。

もっと少ないエネルギーで暮らせないか。

今まで想像もできなかったような家をつくれないか。

私は、そんなことばかり考えてきました。

人の想像を超える家をつくりたい。

それが、私の夢なんです。

そして、お父さんにも夢がありました。

長男さんにも夢がありました。

家づくりというのは、そんな家族の夢を形にする仕事なんですよね。

以前のお父さんの暮らし

私は、以前のお住まいにも何度も伺いました。

お父さんは、目やにがひどく、目がほとんど開かないこともありました。

鼻も詰まり、鼻から呼吸するのが難しそうでした。

豆炭のようなものを使うこたつもありました。

私自身も、そこで打ち合わせをすると頭が痛くなり、本調子が出なくなることがあったんです。

原因は分かりません。

でも、私はそんな体験をしていました。

そんなお父さんの姿を知っていたからこそ、長男さんの願いが胸に響いたんです。

私は医者ではありません。

病気を治すことはできません。

でも、暖かく、涼しく、安心して眠れる家をつくることはできます。

体が暑さや寒さに耐えなくてもいい環境。

家に帰ればゆっくり休めて、翌朝また新しい一日を迎えられる。

家は、人が休み、回復するための場所でもある。

私は、そう考えて研究を続けてきました。

そして、お父さんにがんが見つかった。

ようやく家づくりが動き出した矢先。

お父さんに胃がんが見つかりました。

胃を切除する手術を受け、入院することになったんです。

あんなに楽しみにしていた家づくり。

ところが、自分の家が建っていく現場を見に来ることもできなくなってしまいました。

私は、何とかしてあげたいと思いました。

基礎ができる。

柱が立つ。

屋根ができる。

少しずつ完成していく自分の家を、お父さんにも見てもらいたい。

コロナに負けない。そうだ、YouTubeを撮ろう!

ちょうどその頃、世の中は新型コロナの影響で大変な時期でした。

イベントも、結婚式も、次々と中止。

私の親友で、カメラマンの金子斗夢さんも仕事がなくなり、元気をなくしていました。

日本中が不安でいっぱいだったあの頃。

こんなときだからこそ、何かできないだろうか。

少しでも日本を元気にしたい。

コロナに負けてなんかいられない。

そんな思いがありました。

すると、金子さんが提案してくれたんです。

「加藤さん、YouTubeを撮りましょう!」

そうだ、それはいい!

今だからこそ、できることがあるじゃないか。

私には、家づくりを通して伝えたいことが山ほどありました。

そして何より、病院にいるあのお父さんに、自分の家ができていく様子を見せてあげたい。

現場に来られなくても、動画なら見てもらえる。

家づくりの楽しさも、希望も届けられるかもしれない。

「よし、やろう! コロナなんかに負けてられるか!」

そんな気持ちで、私たちはYouTubeの撮影を始めたんです。

始まりは、二人の小さな挑戦でした。

ところが、やがてエアコン1台の全館空調を解説した動画が、5万回以上再生されることになります。

本当にびっくりしました。

でも、最初から再生数を増やそうと思って始めたわけではありません。

コロナで大変な世の中を、少しでも元気にしたかった。

そして、病院にいるお父さんにも、家づくりの楽しさを届けたかった。

金子斗夢さんの一言があったからこそ、私たちは一歩を踏み出すことができたんです。

それから何年もの時間が流れました。

そして、胃を切除してから8年。

お父さんは元気な姿で、私の建築現場に来てくれました。

以前の目やにや鼻づまりの悩みもなくなったと聞いています。

そして私に、忘れられない言葉をかけてくれたんです。

「俺が生きることで、加藤さんの家がすごいことを証明するんだ」

 

あのとき撮影したYouTubeが、5万回再生されました。

親友のカメラマン、金子斗夢さんと始めたYouTube。

あのとき撮影した全館冷暖房の解説動画は、今では5万回以上再生されています。

私たちがどんな家をつくり、どんなことを大切にしてきたのか。

ぜひ、実際の映像をご覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=HAgXRJPiANw

今でも、この動画を見てから見学に来てくださるお客様がいます。

「昔からこんなことをやっていたんですね」

そう言っていただけるのが、本当にうれしいんです。

 

 

後編へ続きます。

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