前に、あるセミナーに呼ばれて行ったことがあります。
そこで講師の方が、こんな話をしていました。
「今まで気密や断熱を頑張ってきた人たちは、もうみんな同じです」
「これからはインスタグラムを頑張らないとダメです」
「このくらいやらないと勝てません」
そして、すごい発信をしている会社の事例が次々と出てきました。
それを見ながら、僕は心の中で思いました。
なんでやねん。
もちろん、発信は大事です。
今の時代、インスタグラムも大事なんだと思います。
実際、僕だってこうして少しずつやっています。
でも、そのときどうしても引っかかったんです。
いやいや、ちょっと待ってくれと。
たとえば僕が1万円かけて発信したとして、
資金力のある会社は100万円かけてくるかもしれない。
これは例え話ですけど、そういう世界で
「みんな同じように頑張りましょう」と言われても、
そりゃ最初から勝負が違うだろうと思ったんです。
こっちは畑仕事の長靴で立ってるのに、
向こうは最新のスパイク履いてるみたいなものです。
でも、今思うと、
僕が本当に違和感を持ったのはお金の話だけじゃなかったんです。
2025年4月からは、原則としてすべての新築住宅・建築物で、省エネ基準への適合が必須になりました。
つまり、省エネ基準に対応すること自体は、もう特別ではなく“当たり前”の時代に入ったということです。
ここまでは、たしかにそうなんだと思います。
でも、僕はそこで
みんなが同じレベルになったわけではない
と思っています。
むしろ、本当に差が出るのはそこから先です。
同じ「高気密高断熱」という言葉を使っていても、
見えている景色まで同じとは限りません。
初心者と経験を積み重ねた人では、
同じ道具を持っていても、使い方も深さもまるで違う。
家づくりも、きっとそれと同じです。
どこまで空気を見ているか。
どこまで温度のムラを見ているか。
どこまで住む人の体の反応を見ているか。
どこまで夏と冬の両方を、実際の暮らしとして考えているか。
そこが違えば、
同じ言葉を使っていても中身は全然違うはずです。
しかも僕は、
性能の段が上がれば上がるほど、
家づくりはむしろ難しくなると思っています。
扱いは難しくなるし、
うまくいかせるのはもっと難しくなる。
今までと同じ考え方、
今までと同じ空調のやり方、
今までと同じ感覚のままでは、
通用しない場面が増えていく。
やったことのない人にとっては、
その先はまさに未体験ゾーンです。
言葉では簡単に見えても、
実際にやってみると難しさが一気に出てくる。
そこで立ち止まる人もいるし、
つまずいて初めて現実に気づく人もいると思います。
僕自身も昔、そこで立ち止まったことがありました。
だからこそわかるんです。
性能を上げれば自然に成功するわけじゃない。
むしろその先のほうが難しい。
2025年の法改正で、
省エネ基準への対応は当たり前になりました。
でも、本当に差が出るのは、たぶんそこからです。
高気密。
高断熱。
換気。
全館空調。
断熱等級。
Ua値。
C値。
設備。
性能。
数字。
たしかに、どれも大事です。
僕も昔は、そういうものを並べて安心していた時期がありました。
ちゃんとしてる感じがしたし、
すごい家をつくっている感じもあった。
でも今は、そこだけでは足りないとはっきり思います。
だって、同じような言葉を並べていても、
住んでみたら全然違うからです。
夏に2階が暑い家もある。
冬に足元が寒い家もある。
空気が重くて、なんだか疲れる家もある。
設備は立派なのに、暮らしはラクじゃない家もある。
逆に、派手に見せていなくても、
入った瞬間に
「あ、なんか気持ちいい」
となる家もあります。
本当に大事なのは、そこじゃないかと思うんです。
本物かどうかって、
やっぱり少し話せばわかります。
その人が、どこまで悩んできたか。
どこまで失敗してきたか。
どこまで現場で積み上げてきたか。
どこまで“快適”を体で考えてきたか。
そこには、どうしても厚みが出ます。
ひとつ聞いたら、ひとつの答えだけじゃ終わらない。
夏のことを聞けば、夏だけの話では終わらない。
冬のことを聞いても、換気や空気や暮らしの話までつながっていく。
本当に積み上げてきた人の話って、
どうしても薄くならないんです。
だから僕は、
発信を頑張ることを否定したいわけじゃありません。
でも、発信のうまさだけで
家づくりの価値まで同じように並べられてしまうなら、
それはちょっと違う気がします。
家は、見せ方で快適になるわけじゃない。
広告で深呼吸できるようになるわけでもない。
住んだ人が、毎日ラクかどうか。
無理していないか。
気持ちよく暮らせるか。
その答えは、数字の表だけでは出ません。
だから僕は、
“みんな同じ”とは思っていません。
入口は同じように見えても、
中身は全然違う。
話せばわかる。
聞けばわかる。
住めばもっとわかる。
その差は、
これからますます大きくなると思っています。
僕は僕のやり方でいいと思っています。
派手に勝つことより、
ちゃんと積み上げたものが伝わる方がいい。
分かる人には、ちゃんと分かる。
そして本当に困っている人には、
そういう厚みのある話の方が、最後はちゃんと届く。
だからこれからも、
当たり前になった入口の先で、
僕にしかできないやり方で、
本当に快適な家づくりを伝えていこうと思います